傷だらけの起業戦士100人インタビュー第17回:𠮷村美保司法書士事務所 𠮷村 美保(よしむら みほ)さん

起業した人の人生には「失敗」がつきものです。そこには、傷だらけになりながら自分の力で駆け上がっていく戦士たちの物語があります。このインタビューシリーズは、そんな起業戦士達にお話を伺い、その数々の経験談から得た学びを、これから起業したいと考えている人たちに共有し、背中を押してあげられるような企画になれば、そんな想いを込めてスタートしました。

𠮷村美保司法書士事務所 𠮷村 美保(よしむら みほ)さん

第17回目の起業戦士インタビューに応じていただいたのは、𠮷村美保司法書士事務所 𠮷村 美保(よしむら みほ)さんです。長らく司法書士事務所で働きながら資格勉強に励み、司法書士となった𠮷村さん。不動産や会社の登記、遺産整理など、人の財産や人生に関わる重要な仕事で多忙な毎日を送る𠮷村さんですが、なぜ独立し、司法書士という仕事を選んだのか、その経緯について詳しく伺いました。

成績は学年トップクラス 「手のかからない子」を経て

父は消防関係の公務員、母は専業主婦という当時としてはごく一般的な家庭で育った𠮷村さん。今でこそ、複数のクライアントやビジネスパートナーとお付き合いがありますが、幼い頃は人と打ち解けるのが苦手で人見知り、一人で黙々と本を読んでいるのが好きな子供でした。大人にひどく反抗したり、自分勝手な行動をして周りを困らせる、といったこともなく、親からは「あなたは本当に手のかからない子だった」と言われるほど。言われたことは何でもそつなくこなせる、いわゆるおとなしめの優等生タイプで、小学校時代の成績はトップクラス、自主的な勉強もそれほど苦ではありませんでした。

人見知りだったという幼少期の𠮷村さん

成績優秀だった𠮷村さんは、中学受験に合格し、中高一貫の進学校へ入学することになりました。小学校時代とは異なり、周りは自分より優秀な同級生も多く、学生は勉学に励むのが当たり前、という空気感でした。クラブ活動に入っている人もあまりおらず、ほとんどの学生が大学入学を見据えて勉強漬けの日々を送っていました。そんな中で、𠮷村さんも「いい大学へ入ること」をゴールとして勉強に励みます。青春真っ盛りの学生時代に、友だちと遊ぶでもなく、バイトでお小遣いを稼ぐでもなく、学校帰りは寄り道せず帰宅して勉強、というのが𠮷村さんの日常でした。このことに当時は何の疑いもなかったという𠮷村さんですが「思い起こせば、確固たる自分の考えもなく、地味な学生生活でした。今なら当時の自分に、もっと自分の考えを持ちなさい、と言ってあげたいです」と笑いながら振り返ります。

今までの生き方が通用しない 超就職氷河期に直面

大学入試の際には法学部のある学校を選びました。専業主婦だった母親から「きちんと大学を出て、就職して自立できるようになりなさい」「手に職をつけて一人でも生きていけるようになりなさい」と、幼い頃から言い聞かせられてきたこともあり「自分に合っていそうな文系で、手に職といえば法律関係だろう」と考えて選択したそうです。とは言え、ゴールにしていた大学入学が叶ってしまうとそれまでほどは勉強もしなくなりました。試験前だけ一時的に勉強をするものの、それ以外は家庭教師のアルバイトや音楽サークルでの活動に時間を費やし、自分の将来設計などもあまり深くは考えることも無かったと言います。

大学時代、軽音サークル活動の仲間と大学内にて。(左から2番目)

しかし当時、バブル崩壊後の厳しい現実を突きつけられる出来事がありました。超就職氷河期時代がやってきたのです。それまではそこそこ良い大学で適度な成績を収めていれば就職先に困ることはなく、大学には毎年企業の人事が多くやってきて、学生は紹介枠をもらえるといったことも普通でした。それがバブル崩壊によって、これまで一般的だった就職ルートが断たれてしまったのです。𠮷村さんもその壁に苛まれた一人でした。それまでは確固たる考えや自分の軸がなくとも、それなりに勉強をしてある程度の成績をキープできていればうまくやってこれていた人生が、突如としてそれだけではどうにもならないという状況に陥ったのです。

長引く氷河期下での就職活動は困難を極めました。「普通に就活して企業に入る」ことが当たり前と思っていただけに、自分を否定され続ける日々が続き、将来に対する不安がますます募っていきます。

「自分にはもうこれしかない」 司法書士の資格取得へ

数えきれない数の企業に応募をするも、面接にすらなかなかたどり着けない、終わりの見えない就職活動。次第に思考回路もネガティブなものとなり「自分には特筆すべき点が何もない」「何も頑張ってこなかったのだから当然の結果だ」と思い詰めるようになりました。そしてそんな過酷な就職活動を続けていた大学4年生の暑い夏の日、心の中で何かが吹っ切れました。「普通の企業に勤めるのは諦めて、いずれ資格を取得して自立できる道を選ぼう」と司法書士事務所に入ることを決意したのです。法学部の知識を活かせること、母からも言い聞かせられていた自立への道も目指せることもあり、それまでの盲目的な就職活動を軌道修正しました。

そんなある日、目に入った新聞広告の求人を見て応募したところ、個人の司法書士事務所に受け入れてもらうことが出来ました。古い雑居ビルの個人事務所で、目まぐるしく働く日々が始まりました。学生時代に思い描いていた「大手企業のきれいなオフィスで働いている自分」と「現実の自分」にはギャップを感じたと言います。それでもとにかく今は働くしか道はなく、何か身につくまでは辞めずに働こうと心に決めました。

超氷河期の就職活動を経て、晴れて大学卒業

「仕事自体は楽しくて好きでした。地道な作業もわりと苦にならないタイプですし、関係各所で出会った方々にも幸運にも良くしていただいていたので」と語る𠮷村さん。その一方で、どこにも居場所がないような、社会に必要とされていないような、そんな半人前の「何者でもない自分」に対するくすぶりが常に消えませんでした。

「資格を取らなければずっと中途半端なままだ。でも長時間資格の勉強に充てて、もし受からなかったら年だけ取って、取り返しがつかないのでは?」と自問自答を繰り返していました。しかし、30歳になる手前にプライベートでの変化もあり、いよいよタイムリミットがそこまで来ているかのような切迫感が生まれました。

「このままいくと絶対後悔する!他に居場所はない。私には司法書士事務所での仕事を続けるしかない」という思考が頭の中を渦巻きました。司法書士事務所で一人前として認められ、自立して長くやっていくには、やはり司法書士の資格を取るしか道はない、と長年のくすぶりと決別する覚悟ができたのです。

ひとつひとつを丁寧に 信頼を紡いでいきたい

当時の司法書士試験の合格率はわずか3%ほど。その狭き門へ挑むべく、フルで仕事をこなしながら資格の勉強に取り組みました。友達との遊びも、飲み会や旅行のお誘いもほとんど絶ち、土日はもちろん、平日でも仕事終わりに必ずカフェに行き毎日4時間は勉強しました。仕事もプライベートも多忙になる30代半ばにかけて、フルスロットルでこの勉強漬けの日々を送った結果、晴れて司法書士試験に合格したのです。

司法書士試験に合格し、新人研修で仲間と共に記念撮影

資格に合格した後、別の司法書士事務所での実務経験を経て、自身の事務所を立ち上げて独立。自分の名前の付いた事務所で、自分の責任のもと、頂いた仕事ひとつひとつに丁寧に取り組む自分らしいスタイルを貫きながら、人の役に立てることに最大の喜びを感じたそうです。

𠮷村さんはご自身の仕事について「たとえば、相続関係の仕事などであれば、手続きを正確にきちんと終えることは当然ですが、その依頼者が抱えている不安や煩わしさをすべて引き受ける、ということも自分の仕事だと思っています。すべて終わって安堵された様子が伺えたり、直接『ありがとう』と感謝を伝えていただけることが一番やりがいに繋がっています。小さなミスでも、依頼者やその仕事に関わる方々の人生を左右してしまい兼ねないので、法関連の情報アンテナを常に張り、勉強は続けていきたいですね」と思いを語りました。

司法書士の仕事は法的な知識に基づいて、煩雑な手続きや書類をきちんと正確に仕上げることが求められます。しかし、裏を返せば人によって成果物にばらつきが出ることは少なく、誰がやっても結果自体は同じになることが多いという側面もあります。だからこそ、結果に至るまでのプロセスにおいて精度を高めて信頼関係を築き、この人にお願いしてよかったと思ってもらえるかどうかで、司法書士の価値が決まるのではないか、と𠮷村さんは言います。最後に、𠮷村さんに起業や独立を目指す方へのメッセージをお伺いしたところ、次のように語ってくれました。

「お世話になっている社長が仰っていたことで、心に残っている言葉があります。『納めた仕事が自然と営業してくれる』という言葉なのですが、大変な仕事も自分らしくひとつひとつ丁寧にこなしていけば、その仕事ぶりがまた別の仕事を呼び込んできてくれる、という意味の言葉です。事業の成長を重視して仕事が流れ作業的になってしまうより、自分らしく丁寧で地道なスタイルを貫きたいという思いもあって私は独立しました。ありがたいことに、その私らしいスタイルを信頼して頼って下さる方もいらっしゃいますし、その方の信頼から紹介に繋がり、次のお仕事をいただけることもよくあります。自分らしさを失わず、好きなことや、やりたいことに覚悟を決めて取り組めばどうにかなるものです。そしてそんな自分のことを支えてくれる方はきっとどこかにいるはずです。必ず道は拓けるので、信じて努力してみてもらえたらと思います」

𠮷村さんの考え方に共感できる方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。もし何かお困りの事がありましたら是非、𠮷村美保司法書士事務所に連絡してみてください。

𠮷村美保司法書士事務所
大阪市中央区北浜東1番12号
TEL: 06-4301-4090

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