【事例】新スローガン「原点回帰」でマインドチェンジ。組織力の底上げを図るサンメッセの挑戦
1935年に田中印刷所として創業して以来、2025年に90周年を迎えるサンメッセ株式会社は岐阜と東京に本社を持ち、印刷分野での豊富な知見と設備、人財を強みとして、近年ではコンサルティング、販売促進プロモーションに加えてデジタル分野にも注力し、社内一貫による多角的なトータルソリューションを提供しています。
2020年以降はコロナ禍によってペーパーレスを始めとしたデジタル化への流れがいよいよ加速する中で、印刷物を中心とした提案を得意としてきた同社も変革を迫られた企業のひとつです。印刷に頼らないソリューションをバランスよく提案できる強い組織となるためには、ビジネスの最前線で戦うソリューション企画部・営業部全体においてパフォーマンスの底上げが急務でした。
同社ではその課題を早急に解決する施策の一環として、マーケティング分野に強い人材の育成に着手。2021年10月からソリューション企画部・営業部の社員向けにチリビーンズ社が提供する全6回のマーケティング講座を実施しました。
この事例インタビューでは、なぜチリビーンズ社のマーケティング講座プログラムを採用するに至ったのか、また、本プログラムによって受講した社員や組織にはどのような変化や気づきがあったのか、導入の背景から実施後の効果までご紹介します。
今回のプロジェクトオーナーとしてプログラム設計に携わったサンメッセ総合研究所(Sinc)代表 / サンメッセ株式会社 取締役 専務執行役員 経営企画室長 管理本部・広報・サステナビリティ・ソリューション管掌を務める田中 信康氏と実際のプログラム実行リーダーとして実行から効果検証を担当した同社の新宿支店長を務める川瀬 直樹氏にお話を伺いました。
「危機感がない」という危機感
競争力アップを目指す中で見えた課題
これまで印刷を中心とした事業に重きを置いてきたサンメッセ株式会社は、近年ではコーポレート・コミュニケーション事業、パッケージ事業、IPS事業(Information Processing Service)、ICT事業(Information and Communication Technology)、BPO事業(Business process outsourcing)といった新規事業を起ち上げ、競争力の強化を図っています。
2020年以降はコロナ禍によってペーパーレスを中心としたデジタル化への流れが加速したこともあり、田中氏は「社会のスピードがますます加速していると感じ、危機感を強めていた」と言います。その一方で、全体の売上げとしては2021年に過去最高を記録するなど、直接的な影響を実感しにくかったこともあり、社員の中での危機感はそれほど大きなものではなかったそうです。このことについて田中氏は「社内では危機感をそれほど感じていないという空気感こそが最大の危機だと考えました」と当時を振り返ります。マーケットの傾向からも、デジタル化への流れは明らかで、印刷に依存しないビジネスモデルをスピーディに作れる組織となる必要がありました。
1935年に創業した同社は2025年に90周年を迎えます。そこへ向けて掲げたスローガンは「原点回帰」。過去2019年から2021年までの3年間に掲げていたスローガン「Sunmesse Pride(サンメッセ・プライド)」では、自分たちに誇りを持ち、自信を高めることを目指してきました。その期間で育まれたプライドをもとに今一度原点へ立ち返り、強みや元来の企業DNAを再認識して活かす、これが創業90年へ向けた2022年のプランです。
次世代育成の担当役員でもある田中氏は、新規事業の開拓に率先して取り組む一方で、この原点回帰へのアクションの必要性も感じていました。「これからの市場で生き残るために、現状の売上に慢心せず、新規の分野にあえて切り込むこと、そして人財育成に力を入れること、この二軸を同時多発的に実行しなければならないと考えました(田中氏)」
一方の川瀬氏は2018年に起ち上げられた東京・新宿の新しい支店で支店長を任されています。同支店のメインミッションは新規事業の開拓。新宿という土地柄、トレンドや市場への感度の高いお客様が多いという同支店では、新型ウイルスが猛威を振るった2020年に過去最低の予算未達を記録してしまいました。川瀬氏は「2021年にはなんとか過去最高の売上げを記録できましたが、納得できませんでした。コロナ禍で広告やデジタルソリューションへの需要は減っていないという状況で、当社は変わらず印刷ソリューションに頼った提案しかできていなかったことに改善ポイントがあると気づいていました」と分析します。組織の今後に危機感を感じていた田中氏と現状の課題に気づいていた川瀬氏は、社員の育成を通じて物事への根本的なマインドを変革させ、顧客の課題解決に対する競争力の強化が急務であるという共通認識に至りました。
マーケティングは共通言語
従来のやり方からの脱却
新規事業の開拓というミッションを背に現場の最前線で日々闘う川瀬氏は、近年、自分のチームを取り巻いている環境の変化にも気づいていました。これまで印刷関連の案件で同業者とのコンペの機会が多かったのに対し、近年では広告代理店やデジタルマーケティングを含めたマーケティング企業など異業種とコンペになる機会が増えてきたのです。新規事業へ軸足を移すべく新規開拓を続ける中で、需要の幅が広がるのは当然の流れですが、これまでのやり方だけでは通用しなくなっていると身をもって感じていたのです。
「ステップアップしなければ、そして私たちのマインドを変えなければ生き残りは無いと考えました。また、ソリューション企画部と営業部がそれぞれの仕事に干渉せず、深いディスカッションもないまま、これまでの経験ややり方をただ続けている、という状況でした(川瀬氏)」
営業部は案件を取って基本情報をソリューション企画部へ共有した後に、企画立案のプロセスで深く関わることもほとんどなかったことから情報とコミュニケーションに不足が生じ、ソリューション企画部から上がってきた提案と顧客からの期待値にギャップが生まれることも少なからずありました。川瀬氏はこの状況についても「ロジックを持って共通言語を持てば変われると確信していました。これまでの経験値に頼って感覚的に話をするのではなく、もっと根底の部分から説得力のある提案を作る必要がありました。そのためにはロジックと共通言語を持ってアウトプットの前に社内できちんと内容をブラッシュアップできる体制づくりが必要になると感じていました」と話します。
田中氏はこの状況を目の当たりにして、社内の力だけで解決するには限界があると判断しました。川瀬氏をはじめとした現場からのこうした声がボトムアップから大きくなってきたこともあり、外部のプロフェッショナルと一緒に組織力を高めていくという選択肢に次第に導かれていったのです。同社内外でもさまざまな選択肢がある中で、これまでに幾多の事業会社における実務に基づいた幅広いマーケティング業務の知見がある講師であること、そして国際認証を受けている本場アメリカのMBAで学べるマーケティング基礎の内容も網羅していることからチリビーンズ社のマーケティングプログラムを選びました。導入の決裁を通した田中氏は「とは言え、相性やタイミングもあると思います。自社のメンバーと合いそうな講師やプログラムであるかどうかも大きな決め手になっています。単なる座学としてではなく、きちんと組織の課題に対して一緒に切り込んでもらいながら、柔軟性を持って双方向による取り組みに出来ることが重要でした」と語ります。
主役はあくまでも社員たち
自主性が効果アップのカギ
こうしてマーケティング講座の導入に踏み込んだサンメッセ社では、2021年10月から12セクションを6回の講義に分けたプログラムを実施しました。以下はその内容です。
1. マーケティング基本の「キ」
2. 戦略基礎
3. 分析ツール(SWOT/STP/ファイブフォース/3C/4P/PEST(EL))
4. ポートフォリオ
5. 市場調査
6. 消費者行動
7. ブランド戦略
8. グループワーク
9. グループワーク発表会
10. Marketing 5.0
11. デジタルマーケティング
12. KPI
参加メンバーの選定に関わった川瀬氏は、参加したいという一人一人にレポートを書かせることでその意欲の高さを測りました。年齢や経験値に関わらず、課題意識を持って、やる気のある人間が主体性を持って参加しなければ無駄になってしまうと考えたためです。また、参加者のスクリーニングはトップダウンではなく、なるべく公平になるようにボトムアップから。結果として34名の参加応募があり、川瀬氏も「正直、こんなに沢山応募してもらえるとは思っていませんでした。ほとんどの社員が高い課題意識を持って意欲的に参加を表明してくれました」と率直に驚きを語ります。
田中氏も川瀬氏を初めとする参加者の前向きな姿勢に賛同しました。「経営陣に対してはこの取り組みにおいて”主役は誰なのか”、”目的は何なのか”という2点がメイントピックでした。現場で戦う営業部やソリューション企画部のメンバーが主役であり、いま彼らが提案力を身に着けることの必要性について、そしてこの声は現場から上がっているということを説得材料に、丁寧に説明して稟議を通しました(田中氏)」
結果として本プログラムには企画・営業の多くのメンバーが参加することになりました。およそ2時間の講義は月に一度、あえて業務時間内に設定しました。あくまでもこのプログラムが会社を上げての取り組みとして業務と同等であるという認識を与え、意識を高めることが狙いでした。またほとんどの講義には田中氏も同席しました。プログラムをチリビーンズ社と共に設計した背景もある他、トップ層の人間がいることでこの取り組みへの優先度を高めるためでした。
また、内容に関しては基礎からの構築をメインとしました。経験値に幅のある参加メンバーでしたが、全員に対して基礎からともに固めることで障壁となっていた全体の共通言語を持たせる狙いがあったためです。
社員のポテンシャルを信じる大切さ
スイッチさえ入れば人は変わる
前述のプログラムにおいて1〜7セクションで基礎をある程度固めてから迎えた8〜9セクションでは実際に顧客から上がってきているソリューション提案の依頼に対するプランを作成するグループワークを実施しました。全プログラムの中でもこの回は、それまでの座学で得た内容を一気にアウトプットして自分たちのものにする機会でした。
この回は全体のプログラムの中でも最も反響の多いものだったそうです。受講後のアンケートでも「自分たちの仲間がこれほど良い提案ができるとは思っていなかった」「自社のポテンシャルの高さを感じた」などポジティブな気づきに関するコメントが多く寄せられています。
本プログラムをリードしていた川瀬氏も「基礎的なことを学んだだけでも十分に実践で通用する説得力のあるプランを出せたことは本当に驚きでした。正直なところ『負けた』と感じるほど良い提案を出してきたチームもいて、いい意味でショックでした。グループワークの発表でさらに全員のスイッチが入ったのを感じました」とその効果を実感したようです。
プログラムのプロジェクトを経営層の立場からサポートしてきた田中氏も、社員が予想以上のパフォーマンスを見せたことに驚いたと言います。「本当に基礎からやって正解だったと感じました。プログラムの途中で、座学ではなくもっと実践的な内容にしてほしいという声もあったものの、とにかく一度基礎を固めてから、と方向を変えませんでした。結果として、普段は目立って発言をしたりしないメンバーからも素晴らしいプランが飛び出したこともあって、彼らのポテンシャルの高さを目の当たりにしました。これまで自分がアンコンシャスバイアスを持ってしまっていたことにも気づいた次第です。人の可能性を信じて任せることの大切さを改めて痛感しました。実はこの回では社員が提案するプランに感動しすぎて、途中で何度か目頭が熱くなってしまったほどです(田中氏)」
部署を超えたマインドチェンジで
コミュニケーションにも変化が
プログラムを受講した後、社内のメンバーに変化も起こりました。それまでお互いの業務に干渉し合わず、時として成果物と期待値にギャップが生じてしまっていたソリューション企画部と営業部の間で、より深くお互いに情報を共有し合い、もっと深いディスカッションをしようという動きが見られるようになったのです。
ここ数年はコロナ禍という事もあり、なかなかリアルに会って相手の顔を見ながら空気感までも読み取るということが難しかったものの、最近では重要な情報や意見交換をするために対面でやり取りするケースも増えていると言います。また、プログラムの中で自社の強みや弱み、マーケットの機会やリスクなどを事前に掘り下げる癖や、分析のための様々なメソッドが身につき、お互いが共通言語を持って話せるようになりました。
田中氏は「効果検証はまだまだこれからですが、学びが必要だというマインドを全員が得られたことは大きいと思います。最近はメンバーからの日報でも視点に変化を感じています。やる気だけではなく、ロジックが身に着いたことで自信を得て、以前よりも積極性のある自立的な組織になっていると感じています。」とその変化を実感しています。
最後にお二人に今後の展望についても伺いました。
田中氏は「原点回帰」のスローガンを引き合いに出しながら「市場にはファスト印刷なども溢れている中、当社の強みはあくまでも血の通った会話を通してお客さまの課題解決に柔軟かつ迅速に尽力するということ。当社はもともと岐阜の地元で映画館や情報誌の発行などエンタメの分野を展開していたこともあります。原点回帰という意味ではそうしたDNAも引き継ぎながらコミュニケーションに長けたプロ集団になっていくことも成長ドライバーになると考えます。今回のプログラムで得られるようなメソッドや理論的思考も引き続き育てながら、顧客の細かな課題まで引き出せるコミュニケーション能力で競争力を強化していけたらと考えています」と語りました。
メンバーの意識に変化を感じているという川瀬も同様に自社の強みを生かす方向を更に模索していくそうです。「自社の強みを考えた時にアジリティ(俊敏性)に行きつきました。私は部下にいつも『面倒くさいことをやれ』と伝えています。『面倒くさい=単価が高い』ことを見つけ、丁寧にソリューション提案していくことでブランディングにもつながります。ファスト印刷のようにスピードや効率のみを求めすぎず、自社が提供できるBPO、IPS、パッケージなどのトータルソリューションを武器に、お客さまの課題解決をしていくつもりです。新規案件を積極的に狩りに行けるような、嗅覚の鋭い精鋭部隊として自分のチームをもっと成長させたいですね(川瀬氏)」
ボトムアップとトップダウン両方から取り組んだ今回のプログラムは、メンバーの知見の向上だけでなくその意識改革にも一役買ったようです。この学びを活かして営業活動をより実りあるものとし、その実りを以てさらに貪欲に挑戦する組織を目指すサンメッセ社。原点回帰を経た先にある創業90周年、そして100周年へと向けたさらなるビジネスの成長にも期待が寄せられます。
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