傷だらけの起業戦士100人インタビュー第13回:ミッション・ワン合同会社 代表 Marc Cellucci(マーク・チェルッチ)さん
起業した人の人生には「失敗」がつきものです。そこには、傷だらけになりながら自分の力で駆け上がっていく戦士たちの物語があります。このインタビューシリーズは、そんな起業戦士達にお話を伺い、その数々の経験談から得た学びを、これから起業したいと考えている人たちに共有し、背中を押してあげられるような企画になれば、そんな想いを込めてスタートしました。
第13回目の起業戦士インタビューに応じていただいたのはミッション・ワン合同会社 代表 Marc Cellucci(マーク・チェルッチ)さんです。iOSやAndroidベースのアプリ開発、また日本の優れたエンターテインメントコンテンツを全世界に向けて発信するためのローカライズという2つを主軸にさまざまなプロジェクトを展開し、会社設立から実に14年目を迎えています。19年前にアメリカから来日し、かつては国内大手のゲーム会社を渡り歩いた彼が、なぜ起業という道を選んだのでしょうか。
将来の夢はゲーム開発
ゲームで身に付けた問題解決能力
アメリカ合衆国テキサス州出身のマークさんは、幼少期から社長になりたいという願望があったわけではありません。ただ、幼いころからゲームが大好きで、ゲームを作る人になりたいと夢見ていた少年でした。様々なゲームをプレイしていたマークさんですが、当時一番好きだったメーカーはセガでした。もちろん当時はファミコン全盛期で、スーパーマリオ、ゼルダなど任天堂系のソフトもプレイしていたものの、セガが誇る高い技術力とチャレンジ精神に少年心をくすぐられたのです。また、任天堂ならマリオ、スクエアエニックスならRPGといった勝ちパターンがあるのに対し、セガはその最先端の技術力と斬新なアイデアで、ソフトからハードまで幅広い市場で戦い、大成功することがある一方で、とんでもない大失敗をしてしまうこともあり、そうしたところも応援したくなる理由だったといいます。
そんなマークさんが16歳の時、テキサス州で大学1年生に飛び級できるという2年間のプログラムがありました。応募してみたところ、なんと州からたった200人しか選ばれない狭き門を通り、プログラムメンバーに見事選ばれたのです。マークさんはこの事について次のように説明します。
「多くの人は誤解していますが、ゲームをプレイすることは本当は頭に良いんです。ある問題や課題があって、それを限られた条件の中でどのように解決するか、自分のスキルをどのように高めれば解決できるかという事を常に考えるわけですから」
ゲームに夢中でゲームを作る職業に就きたいと考えていたマークさんですが、当時は今のようにゲーム開発の専門学校があるわけではありませんでした。そのため大学では、ジャーナリズムとインターナショナルの科目を専攻し、ゲームではなく勉強と友達との交流に時間を費やしました。また、当時はインターネットの創成期で、初めて”www(ワールドワイドウェブ)”の世界を知ったマークさんは世界中がデジタル上で繋がれるという不思議な体験をきっかけに、ウェブサイト作りを夢中で勉強しました。コードの知識をゼロから学び、サイトマップ設計、ページデザインまで自分でできるようになりました。
大企業で働く=安定などではない
自分がハッピーになれるフィールドを求めて
ジャーナリズムを専攻していたことから、ライティングには自信のあったマークさんは、加えてウェブサイト制作のノウハウも活かし、大学卒業後にはFTP関連の企業に就職します。そこではスキルをフル活用して、自社サイトのリニューアルなども担当しました。しかし、一方でゲーム会社に入りたいという夢は消えたわけではありません。そこで、当時すでにセガのアメリカ支社に入社していた友人に「どうにか紹介してほしい!」と何度もお願いをしていたそうです。すると、ちょうどその頃、セガではホームページが作れる人材の募集があり、なんとマークさんは採用をゲットすることに成功します。ついに長年の夢であった大好きなセガへの就職を実現したのです。当時のセガはドリームキャストを発表したばかりで波に乗っていたこともあり、マークさんは充実した会社員生活を送っていました。
しかし2年ほどセガのアメリカ支社で働いていた頃、あるきっかけが訪れました。その頃のアメリカ経済は不景気の真っただ中、会社の経営も傾き始めていました。そんなある時、マークさんは会社からクビを言い渡されます。マークさんの優秀さを認めていた当時のチームメンバーはみな大反対して掛け合ってくれましたが、決定が覆ることはありませんでした。
会社を去ったマークさんでしたが、セガ本社が日本にあったことや、大学卒業後に何度も訪れて人の温かさと食べ物のおいしさ、文化などに感動した経験から、日本に住み、真剣に日本語を学んでみたい、と語学留学を決意します。思い立ったマークさんは日本語学校で2年間みっちり学ぶため宮城県仙台市へやって来ました。
無事に日本語学校を卒業した後、しばらくは別の会社で働いていたマークさんでしたが、アーケードゲームを海外向けにローカライズできる人材を探していたセガ本社のプロデューサーから声をかけられ、なんと今度は日本のセガ本社に入社することになりました。配属されたのは子供のころから憧れていたゲーム制作を手掛ける開発部隊。しかしプロデューサーの右腕として様々な業務をこなさなくてはならないポジションだったマークさんは、国内外のパートナーとの調整や実務以外にも企画書、稟議書や契約書など、日本人でも読み解くのが難しい大量の文書を作成しなければなりませんでした。
2年ほど働いたマークさんでしたが、次第に日本特有の仕事の進め方や業務内容などに違和感を感じ始めていました。自分が思い描いていたゲーム制作と現実との間にあるギャップが埋められないほど大きくなっていたのです。そして、今のまま続けてもハッピーにはなれない、と感じたマークさんはアメリカで解雇された経験もあり「企業に所属しても、いつ仕事がなくなるか分からないし、安定なんかじゃない。自分の強みを活かしたビジネスを自分で起ち上げて、ハッピーになれるような仕事がしたい」と会社を去る決意を固めました。
アプリ開発を通じて経験した失敗の数々も
経験として学べば価値に変わる
マークさんはそれまで会社でも主に担当していたゲームの海外向けローカライズを中心として事業をスタートしました。しかしちょうどその頃に、アップル社のiphoneが発表されたことをきっかけに自社ゲームアプリの開発にもチャレンジします。
オリジナルゲームのアプリ制作プロジェクトは、他に外部スタッフとしてデザイナーとプログラマーを一人ずつ誘い、3人体制で着手しました。簡単なパチンコゲームをスマートフォンでプレイできるというものでした。ゲーム会社にいた経験もあったことから、日本人にウケるのではとリリースした作品でしたが結果は惨敗。最初はなぜダウンロードしてもらえないのか理由が分からなかったと言います。しかし分析した結果、スマホゲームはスキマ時間を利用してプレイするため、マークさんが設計した本格的な設定のパチンコゲームではプレイに時間がかかりすぎ、スキマ時間では楽しめなかったことが敗因だと分かりました。数百万円の予算をかけて開発した初めてのゲーム作品は失敗に終わりました。
しかしマークさんは笑顔でこう話します。「ゲーム作品は失敗しましたが、『こんな作品を作ることができる』という実績を残せたので、営業ツールとして使いました。結果としてはこの営業ツールで新規案件の獲得に成功したので、失敗しても活かす方法を考えれば成功になるんです。仕事を得るには実績が必要ですから」
また、当初は予算が多く取れないことから、副業のスタッフを起用していましたが、それもうまくいきませんでした。メインの仕事を持っているメンバーではどうしてもリソースがメインに集中するため、締切を守ってもらえないといったことがあったためです。そこで少々予算が高くなったとしてもきちんと契約を交わして依頼できる外部パートナーや契約社員を集めて体制を整えました。結果として納期スケジュールはもちろん、プロセスや品質の改善にもつながりました。
更にマークさんは「会社を作った当初は、自社による失敗だけではありませんでした」と、設立当初の別の失敗エピソードを教えてくれました。
知人の紹介でとあるアプリ開発を請け負った時のことです。500万円程で開発を請け負ったアプリを納品した後に、その取引先の担当者に突然連絡が取れなくなったのです。連絡がつかず不安になったマークさんは、意を決して直接その事務所へ赴くことにしました。しかし取引先の事務所がある場所へ行っててみると、そこはすでにもぬけの殻。なんと支払を踏み倒して逃げられてしまったのです。実はこうした未払いは他にも数回あったそうです。そうした経験を経て、危なそうな案件の見分け方が身につきました。また、その時からは必ず頭金をもらい、納品物や条件の詳細を記載した契約書もしっかりと取り交わすようにしています。こうした怪しい依頼を避けて、案件を選べるようになったのは起業から数年を経た頃でした。
現在では案件が増えて業績も安定し、20名程の社内外の優秀なスタッフが様々なプロジェクトを回していますが、今のところ、ここから会社をさらに大きくすることは考えていないそうです。マークさんはその理由について「今のやり方や生活が自分には合っているので、無理をして変える必要性を感じていません。そして会社を支えてくれる優秀なスタッフが満足できるレベルの収入を維持できるように、彼らの生活をきちんと守ることが今の自分にとって一番大切なことですね」と教えてくれました。
最後に、起業したい人へのメッセージと具体的なアドバイスを頂きました。
「起業はトライしてみた方がいいと思います。会社員は毎月給料をもらえますが、必ずしも安定が約束されているわけではありません。自分の道を歩んでハッピーになりたいなら、自分の会社を作るしかないんです。それから、起業する時はいきなりチャレンジングな新規分野に挑むのではなく、確実に価値を生み出せる事業も持っておくべきです。弊社の場合、前職での経験が活かせて需要もあったゲームのローカライズ事業がそれに当たります。新しいチャレンジにはお金もかかりますから、手堅い事業をベースとして展開して、新規事業への資金を十分に生み出しておくことをおすすめします。」
マークさんが展開される事業に興味を持たれた方や相談がある方は、是非ホームページもチェックしてみて下さい。
ミッション・ワン合同会社
https://www.mission-one.jp/
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