傷だらけの起業戦士100人インタビュー第18回:株式会社SmileyLab 井上 倫子(いのうえ りんこ)さん
起業した人の人生には「失敗」がつきものです。そこには、傷だらけになりながら自分の力で駆け上がっていく戦士たちの物語があります。このインタビューシリーズは、そんな起業戦士達にお話を伺い、その数々の経験談から得た学びを、これから起業したいと考えている人たちに共有し、背中を押してあげられるような企画になれば、そんな想いを込めてスタートしました。
第18回目の起業戦士インタビューに応じていただいたのは、株式会社SmileyLab 井上 倫子(いのうえ りんこ)さんです。もともとはバンドマンとしてアルバイトの日々を送っていた彼女は、一体どんなきっかけでアルバイト生活から抜け出し、自身で会社を立ち上げるまでにいたったのでしょうか。バンドに情熱を燃やしていた頃から、数々の失敗を経てYouTubeやライブ配信の事業が軌道に乗るまでのストーリーを詳しく伺いました。
ヴィジュアル系バンドとの出会い
ミュージシャンとしてのデビューを夢見て
東京都府中で幼少期を過ごした井上さんは、おっとりとした性格で、どちらかというと気持ちをきちんと伝えることが苦手な子供でした。その反面、自然の中で気持ちを開放できるアウトドアや、自分を自由に表現できる音楽が大好きだったと言います。父親は公務員、母親は自身の会社を経営しており、共働きでした。とりわけ母親はまさにデキるキャリアウーマンで、昼間に会えない寂しさから母親の会社に電話してしまうこともあったそうです。父親はマイペースなタイプでしたが、母親は「勉強しなさい」と厳しいタイプでした。そんな母親を喜ばせたい気持ちもある一方で、勉強のやり方に関しては参考書を隅々まで徹底的に読んですべてを理解しないと気がすまないなど、自分にどこか要領の悪さを感じていました。
しかし高校生になると、公務員になる以前は商社マンだった父親が英語の勉強を見てくれるようになりました。朝早く一緒に起きて英語の学習に取り組む中で、井上さんは英語に対して得意意識が芽生えていきます。その影響もあって高校卒業後には英語の専門学校へ進むことになりました。
しかし専門学校時代に、世の中ではビジュアル系バンドのブームが訪れていました。井上さんもLUNA SEAなど当時人気絶頂だったバンドに魅了され、ライブに足繁く通うようになります。そのうちもともと音楽が大好きだったこともあり、自身でも楽器を演奏してステージに立ちたい!と思うようになりました。当時お付き合いしていた人の影響もあって、エレキベースを弾くようになり、バンドでデビューするという夢が芽生え始めます。
3ヶ月で会社を退職
フリーターからの脱却を目指すも…
専門学校を卒業後、井上さんは洋服が好きだったこともあり、アパレルメーカーに就職します。最初の職場での仕事は若者向けデパートのショップ店員としての接客でした。学生時代に居酒屋などで長く働いていたこともあり、接客業は苦手ではありませんでしたが、入社した企業の経営方針に違和感を感じたと言います。とにかく「上顧客を掴んで離さず、カードの限度額に達するまで、できるだけ多く高い商品を売れ」というのが上司からの指示でした。もともとおっとりした性格だった井上さんはこうしたプッシュ型の売り込み方に、心の折り合いがつかず、次第に苦しくなっていきました。さらに輪をかけて社内の人間関係にも居心地の悪さを感じ、入社から3ヶ月という短期間で退職しました。
そこからはバンドマンとしての夢を追いかけ、音楽活動に専念しながら、フリーターとして働く日々が始まりました。様々なバンドを組んでは解散し、これまでに合計7つのバンドを経験しました。しかしどれも安定して生活できるほど売れたバンドはありません。
「売れないのは圧倒的に技術が足りないからだ!」
当時の井上さんはこの状況を打開すべく、ベースの練習時間の捻出方法を考えます。フリーターのままでは難しいとわかっていました。なにかいい方法は無いものかと考えていた頃、当時流行っていたインターネットのオフ会へ参加します。そこの参加者たちとの交流を通じて、井上さんは収入を高めながら自由な時間も生み出せるネットワークビジネスの存在を知ることになります。楽器の練習時間をたっぷり取ることができる上に、フリーターを続けるよりはるかに高い収入を得ることができる、そんな理想の働き方のように感じたのです。
井上さんはオフ会に参加していたメンバーの中に高級マンションに住み、ハイクラスな生活を楽しんでいる人がいることを知りました。その人の成功を目の当たりにし、これは確実に稼げる!今の生活から脱却するにはこの方法しかない!とその人のグループに所属してネットワークビジネスに染まっていくことになります。
借金が膨らみ、親にも泣かれ
YouTubeにかけた一縷の望み
「自分で理解できないと、商品を売ることなど出来ない」と、学生時代に参考書を隅々まで読んでいた井上さんの気質がここで表れました。とにかく人に売るためにその商品を買って徹底的に使い込む、そのことによって営業トークに説得力が生まれるに違いないと思った井上さんは様々な商品を自身で購入して研究することから始めました。
しかし自身が勉強のために購入する商品の金額を上回るほどの売上を立てることは出来ませんでした。それでも「いつかはあの人みたいに儲かる日が来る!」と信じて売り込みを続けました。しかし友達や家族、親戚にまで売り込むうちに次第に友達は減り、母親からは「お願いだからもう止めてほしい」と泣かれたこともありました。借金は増え続けましたが、この苦しみの先には楽園が待っている、と疑いませんでした。
しかしこの生活にも転機が訪れます。様々なマネタイズの方法を探るうち、ノウハウの知識集めに没頭しても借金は減らず、実践には何も活きていないという事実にようやく気がついたのです。
そこで、ネットワークビジネスに見切りを付けて新しいことにチャレンジするべく軌道修正を始めました。時は2017年、エンターテインメントだけでなく教育系や解説系など様々なタイプのYouTubeチャンネルが開設され、ある程度収益化できる成功パターンも見えてきていました。井上さんも「これでダメだったら普通の仕事をしよう」と覚悟を決めてその世界に飛び込みます。
当時知り合ったパートナーとともに、道を模索するべく収益化の方法論について腰を据えて学びました。まず見込みのありそうなジャンルを先人たちにも聞きながら絞り込み、ターゲットのペルソナを定めて、その人達が求めるようなコンテンツを制作してアップし続ける、という地道な作業でした。しかし根気よく続けていると、そのチャンネルでのコンテンツで再生数が伸びはじめ、なんと初めて収益を上げることが出来たのです。一度再生数が回り始め、コツが分かり始めると後は収益化のフローが確立されました。
こうして井上さんは腹を括って飛び込んだYouTubeのチャンネル運営で成功を収め、2019年3月に個人事業主から株式会社へと移行することになりました。
人に喜んでもらえなければ
お金なんてもらえない
しかし株式会社を立ち上げてまもなく、いきなりピンチが訪れます。
YouTube側のルール変更によって、それまで収益が出ていたチャンネルで収益が出せなくなったのです。昨日までOKだったものが今日から突然NGとなる。企業が提供しているものである限り、どのソーシャルメディアやプラットフォームでも起こることですが、井上さんは「利益を上げられるからと言って、ひとつの方法だけに頼っていて、考えが甘すぎました」と、当時を振り返ります。そこで新しいルールに合わせたコンテンツの制作に乗り出します。パペットを使ったもの、Vチューバーを使ったもの、自身が出演するものなど、色々と試行錯誤をしながら、地道に利益を回復させていきました。
そんなある時、ドローン競技を立ち上げている知人から、プロモーションのための動画制作・ライブ配信の仕事が入りました。リスク分散の必要性を感じていたこともあり、この仕事がこれまでの経験を生かした別事業を確立する足がかりとなりました。先のYouTubeチャンネル運営と併せて、いまではライブ配信事業も井上さんの会社を支える柱のひとつとなっています。
井上さんが描いている今後の展望としては、もともと心にずっと抱き続けていた、音楽を発信したいという想いを現在のYouTubeチャンネル運営に活かすことだそうです。新しく立ち上げるチャンネルでは子供向けのコンテンツで音楽も楽しめる内容になっています。
最後に井上さんにこれから起業を目指す方へのメッセージを頂きました。
「音楽で売れたいと思っていた時は、自分のことばかり考えていました。でも今では人のためになることを中心に考えるようにしています。人に喜んでもらえるものでなければお金なんてもらえません。だから自分のためだけに闇雲にやるのではなく、自分の得意なことやできることで、どうすれば人に喜んでもらえるかを考えてみると良いかもしれませんね」
今回の井上さんへのインタビューが起業を目指す方々へのヒントになれば幸いです。
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