傷だらけの起業戦士100人インタビュー第2回: Fortify株式会社 代表取締役社長 仲野 琢杜(なかの たくと)さん

起業した人の人生には「失敗」がつきものです。そこには、傷だらけになりながら自分の力で駆け上がっていく戦士たちの物語があります。このインタビューシリーズは、そんな起業戦士達にお話を伺い、その数々の経験談から得た学びを、これから起業したいと考えている人たちに共有し、背中を押してあげられるような企画になれば、そんな想いを込めてスタートしました。

ガジェットオタクだったとは思えないほど笑顔が爽やかな Fortify株式会社 代表取締役社長 仲野 琢杜 さん

今回の起業戦士は、Fortify株式会社 代表取締役社長 仲野 琢杜(なかの たくと)さんです!仲野さんは現在オーストラリア産のデザートワインとも称されるフォーティファイドワインの輸入業で起業されています。大学を卒業後2社での経験を経て勢いで起業したという仲野さんですが、もともとワインや輸入の知識も業界経験もゼロ。それでも起業に踏み切ったきっかけや現在の事業について伺っていきたいと思います。

日本での「生き方」じゃ通用しない。「個」として生きた異国での思春期

仲野さんの幼少時代はかなり落ち着きが無く、熱しやすく冷めやすい子供だったようです。好きなお菓子にハマると1週間ずっと同じお菓子を食べ続けた挙句、一度飽きたらに親が同じお菓子を買ってきても全く見向きもしない、という超マイペースぶり。3人兄弟の末っ子ということもあってか、自由に様々なものにハマっては飽きて別のものにハマる、を繰り返していたそうです。

電車にもハマったという仲野少年。新幹線の前でドヤ顔です。

そんな仲野少年は13歳の時、親の転勤がきっかけでアメリカの中学校へ入学します。思春期の多感な時期を3年間過ごしたというのですが、最初は戸惑いもあり、なかなか馴染めなかったといいます。というのは、どうやら言葉の問題だけではないようです。

それは決定的な「生き方に対する価値観の違い」。

日本にいたころは、いかに周りに合わせてうまくやっていくか、列を守りペースを乱さないように、迷惑をかけないように空気を読めることが良しとされていたのに対し、自由の国アメリカではそのやり方は全く通用しなかったのです。それどころか、意見を聞かれて「みんなに合わせるよ」という同調の態度を取っていると、みんなからは「こいつは”自分”が無い」「つまらないやつ」と思われ、次第に「そこにいるのに”いないもの”」扱いされ、存在自体が消されてしまうのでは…という強いプレッシャーを感じたと言います。それは差別とはまた別の話で、その証拠に生まれも育ちもアメリカだったアジア人の同級生は、自分の意見をバンバン発信し、存在感は抜群、周りからも尊敬されていたのです。そして学校の授業では、日本の学校では無かった「ディベート(討論)」の授業があり、それぞれが反対意見を激しくぶつけ合うことが、まるで当たり前のことのように行われていました。団体としてではなく「個」として育てられ、社会的にも「自分を持っている」ということが尊重されている社会。社会に置いて行かれる恐怖を覚えた仲野少年は、「自分をもっと出さなくては…!」と、言語の習得はもちろん、「自分の意見を伝える」「自分をしっかりと持つ」ことを重視するようになりました。

カナダを経て初就職!SNS担当としての才能が開花

その後日本へ戻り、日本の高校、大学へ進学。しかしアメリカでの経験もあってか、卒業後、そのまま普通に日本で就職して一生を終えるということに違和感を覚えます。そう思い始めると行動の早い仲野さんは、大学卒業と同時に、アルバイトで貯めたお金を握りしめ、ワーキングホリデーのビザを取得しカナダへ飛び立ちます。中学の3年間をアメリカで過ごしたため、英語ができたことと、もともとガラケー時代から大のガジェット好きで知識があったこともあり、カナダでは携帯電話の通信プランを販売する仕事をゲット。就職前に海外で初めての一人暮らしを謳歌します。そうして心残りを消化した1年後、日本へ戻り、スマートフォンをはじめノートPCやパーツなどを製造販売する外資系の総合エレクトロニクス企業に入社。ちょうどSIMフリースマホが市場に出始めたころで、その企業は当時SIMフリースマホの先駆者でNo.1メーカー。「行くならここしかない!」と直接企業へ問い合わせて見事に初めての就職先に内定しました。とは言え、社会人としての経験が無かった仲野さんは希望していた製品担当ではなく、その頃まだ企業でもあまり本格的に運用されていなかったSNS担当となりました。大学時代に大手メーカーのSNS運用プロジェクトに参加していたこともあり、仲野さんのSNS担当ぶりは社内でも好評でした。当時はサポート体制があまり整っておらずツイッターやFacebook上からクレームなども来ていましたが、「クレームを入れてくる人の方が、良い対応をして逆にファンに変わった時に絆が深まるはず!」という思いを信念として、丁寧に一つずつすべて返信して着実にファンを増やしていったのです。SNS担当として才能を開花させ、時にはメディアから取材が来るほどバズったりもしていた「中の人」こと仲野さんですが、実力が付いてくる反面、もっと自由にやりたい企画を出来ないものか、、、と悩み始めます。そして悶々としたまま1年が過ぎたころ、「ここでこのままもやもやし続けるのはどうなのかな?」と転職を考えるようになります。

転職初日に憧れの部長が退社。その後、超スタートアップ企業で感じた不安

1年悩みぬいた末、ついに転職を決意した仲野さんが次に勤めたのは、超大手のSNSアプリ企業が立ち上げたペイメント事業の新規部署。面接の時に出会った大手代理店出身の敏腕マーケティング部長に入社前から強い憧れを抱き、この人の下でならきっと多くのことを学べる、ここで働きたい!とやる気を新たにします。そして前職での経験も評価され、幸いにも採用が決まりました。しかし、いよいよ今日から!という初出勤の当日にその憧れのマーケティング部長にこんなことを言われます。

「ぼく今日が最終日なんで」

― え?

そこからは新規事業部に一人、上司もいない状態で放り込まれ、何をどうしていいのかもわからないまま月日が過ぎていきました。他の先輩に何かを聞こうにも会議などで忙しいのか、部署の席にはいつも誰もおらず、「何かあればチャットで!」とだけ言われ、忙しい先輩たちの邪魔をわざわざする気にもなれず、自席で特になにもすることもない、そんな日々が続きました。そして会社にはいるのに仕事が無い、所謂「給料泥棒」状態が続くうちに「僕はここに居て意味があるのだろうか。」と不安に駆られ、早々に転職を決意します。

しかし次に転職した会社は超スタートアップ企業。モバイル製品の周辺機器を取り扱う企業でしたが、前職とは異なり膨大な仕事量を任され、スピード、パワー、泥臭さ、数字、ロジック、全てを求められる労働環境だったと当時を振り返ります。仕事としてはSNSだけでなく自社サイトのe-commerceも担当し、顧客満足度に加えて売り上げでも厳正に評価されたことで、正しく数字を見るという視点が身についたと言います。ただ、このことに関しては良かったのですが、これまでやりたかったことがこの会社で叶ったかという質問に対してはNoでした。社長をはじめ社員全員が一丸となって目標に突き進む、最もタフな起ち上がり期のスタートアップ企業での経験はこれまでになく刺激的でしたが、仲野さんは「これは長く続けるのは難しいかもしれない…」と、次第に自身の限界を感じ始めます。そしてこのことで、「結局どこへ行っても長く続かない、、、こんなに会社を転々として、次の会社にももう行けないんじゃないか?自分のやりたいことってなんだろう?」と悩むようになります。しかしそんな時に出会ったのが今のワイン事業をともに立ち上げたオーストラリア人のパートナーだったそうです。

彼は悩む仲野さんに「だったら自分で何かをやってみたら?」と、声をかけてくれたのです。そこで、もともとオーストラリア産のフォーティファイドワインに興味を持っていた仲野さんと、オーストラリア産のワインを日本に広めたいと思っていたパートナーとともに現在の事業の立ち上げを決意します。

日本にまだ無いワインの可能性。そしてその障壁の狭間で…

立ち上げを決めた当初、仲野さんはオーストラリアへ出向き、現地でワイナリーを営む会社や家を一軒一軒調べ上げ、直接交渉をして回りました。そこでオーストラリアのワイン業界が苦境に立たされていることを知ります。というのも、オーストラリアの若者はビールやジンを使ったカクテルを好み、ワイン離れが加速しているというのです。そこで日本でもし新規の市場開拓が出来るのであれば協力する、と言ってくれたワイナリーが意外にも多く、7つのワイナリーと契約をすることに成功します。また、お酒は輸入も販売免許もルールや書類が煩雑で参入障壁が高く、D to Cでオーストラリア産フォーティファイドワインを輸入販売する企業はまだ少ないため、競合はほとんどいません。しかし、これは裏を返せばそれは自分たちで市場への浸透から始めなければならないという、苦難の道を選んだことと表裏一体でもあります。オーストラリア産のフォーティファイドワインの知名度は日本ではほとんど無く、フォーティファイドワイン自体もスーパーなどにはあまり置いておらず、あったとしても隅っこの目立たない場所に置いてある程度で、それもスペイン産のシェリー酒などだったのです。

FORTIFYが仕入れているワイナリーの外観。広々とした大自然の中でおいしいワインが作られます。

それでも仲野さんは「この味は絶対日本でも受け入れられる!」と信じて日々営業をかけ続けています。そんなFORTIFYの事業を仲野さんと共に支えているパートナーについても伺ってみました。選ぶ基準はずばり「信頼できるか」「自分に無いスキルや特性を持っているか」の2点だと即答。「信頼」は絶対的に必要な要素ですが、後者については「自分が結構後先考えずに突っ走るタイプであるのに対し、向こうは落ち着いてきちんと計画的に考えるタイプなので、色々補い合えていますね。」と教えてくれました。そして業務に関しても仲野さんの専門はマーケティングと事業戦略や日本のビジネスパートナーとのやり取り、パートナーはロジスティクス、輸送関連、オーストラリアのワイナリーとのやり取りとまったく被らない領域です。同じ専門スキルを持っている場合、より強力なチームになる可能性があるものの、方向性ややり方の違いなどで食い違いが起こってしまうリスクもあるので、どちらのパターンで起業するにしても、事業のパートナー選びは慎重にした方が良さそうです。

そして気になる資金調達についても伺ってみました。金融公庫、銀行、ベンチャーキャピタルなど様々な方法がある中で、仲野さんが選んだ資金調達はクラウドファンディングです。クラウドファンディングはうまくいけば手っ取り早く資金を集められ、販売もできる方法ではありますが、資金集めがうまくいかない場合もあり、その場合でも途中でやめたり、ウェブから情報を削除したりすることができないため、ブランディングに傷がつく恐れもあります。クラウドファンディングで失敗すると、それがすべてウェブ上でさらけ出されてしまい、経営者の手腕が疑われてしまうのです。

それでもクラウドファンディングを選んだ理由として、以下の3つのメリットを上げてくれました。

・すぐに始められる
・入金された資金をすぐに現金化し活用できる
・顧客の属性やフィードバックが得られ、事前の市場調査ができる

Green Tea Leaves
FORTIFY PICO SERIES 100mlのかわいいサイズで飲み比べが出来、ちょっとしたギフトにも最適。

実際に、顧客からもらったフィードバックを生かし、今年からミニボトルの詰め合わせ商品を展開し、評判は上々。フォーティファイドワインはこっくりとした甘口が特徴ですが、それ故フルボトルだと多すぎると感じる女性のお客様からの声が多く寄せられたのだとか。そうしたお客様からの声を実際に吸い上げ、パッケージデザインやボトリングなどを企画し商品化している仲野さんですが、もともとの専門分野であるSNSについてもしっかりと宣伝に活用しているようです。SNSはオンラインでしか取り扱っていない飲料との相性がとてもよく、パッと見て気に入ってくれたらサイトへ飛んですぐ購入につながるため、こうした事業展開をされている方には適したツールだそうです。

また、これから飲料の輸入で起業する方へのアドバイスを伺ったところ、「最初からいきなり株式会社にする必要はないですね。個人事業主からでも問題なく始められますよ。」と教えてくれました。仲野さんは最初から株式会社を立ち上げましたが、当初はBtoBで商品を卸す際には、個人だと相手にされないかも、と考えていたのだとか。しかし蓋を開けてみると実際には、お酒の輸入事業では個人事業主も株式会社もあまり違いが無く、個人事業主としてフットワーク軽く、対等にビジネスを成功させている方も多くいたのです。このことについて、自分にとっては結果として「本気でやる!」という”けじめ”をつけるという意味では良い方向に作用したものの、これから起業したいという人に対しては初期費用や維持費を考えると”個人事業主”から始めるのがお勧めだそうです。

最後に、今後の展望について次のように話してくれました。

「今はまだオーストラリア産のフォーティファイドワインの知名度は低いので、これからオンラインだけでなく実店舗でも取り扱っていただけるよう、資格やシステムを整備して、スーパーやデパートでも購入できるようにしたいですね。そして、今のコロナウイルスの状況が改善したら、オーストラリアのワイナリーと組んで、フォーティファイドワインの体験ツアーを企画して、より多くの方に生産者さんや作られる過程を知っていただいて、ファンになってもらいたいですね。オーストラリアとのつながりを感じられるような施策で、日本でのフォーティファイドワインを盛り上げたいと思います。」

これがワインを熟成させる樽。機械に頼らず、一つ一つ丁寧に人の手でボトリングするワイナリーもあるそうです。

仲野さんのモットーは「ワインを小難しくせず、もっと気軽に楽しんでもらう」こと。まだフォーティファイドワインを一度も試したことのない方も、ワインが苦手という方も、これからの寒い季節にもぴったりなので是非一度試してみて下さいね。(私も実際に飲ませていただきましたが、これは確かにスイーツと合う!トロッと甘いのにしつこくなくて深みのある余韻が楽しめますよ!)

女性が選ぶ国際的なワインコンペティションであるサクラアワード2020のフォーティファイドワイン部門で特別賞グランプリ / ダイアモンドトロフィー / ダブルゴールドを受賞したラザグレン・マスカット(左750ml/右100ml)

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